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ARG(代替現実ゲーム)関連書籍 | デジタルゲームの教科書 第20章
ARG(代替現実ゲーム)について日本語で書かれた書籍では、この『デジタルゲームの教科書 第20章 Alternate Reality Game(2010)』が最も知られています。ですが、同書の出版は2010年5月です。このため2014年現在では実状と合っていないと感じられる情報があったり、同書が規範とした英語圏のARG環境とは異なる日本のARG環境に関する考察が不足していたりします。
このページでは、ARGの基礎編とも言える同書の内容と、僕自身が直近の4年間、ARGを制作し続けて感じたことのギャップを明示することで、これから同書を読まれる方へ、もうひとつの視点を加えたいと思います。
20.1 ARGとは / 20.2 ARGの要素
この2つの項では、ARGがコミュニケーションゲームであると強調されています。しかし、2009年以降に主流となった短期型ARG(当ブログにおける定義はリンク先を参照)では、プレイヤー間のコミュニケーションを従来ほど重視していないと言うのが僕の考えです(なお、本書には「面白い内容であれば話題にする」旨の記載がありますが、こちらはARGだけに限られた要素ではないため、ここでは割愛します)。
その理由として僕は「短期型のARGではプレイヤー同士で意見を調整する必要がなくなったこと」を挙げます。また、日本のARGにおいては「時差がないことから静的な掲示板ではなく、動的なマイクロブログ(例:TwitterやLINE)がコミュニケーションツールとして利用されるため、第三者が入りにくい環境であること」や「東京圏にプレイヤーが集中しているため、インターネットを介して幅広い人と交流をするよりも、既知の仲間と情報を共有する傾向が強いこと」も挙げられます。
また20.2項ではTINAG(This Is Not A Game)と呼ばれるARGのルールについて「ゲームであるという情報を隠蔽することで、プレイヤーに現実感を与える」と書かれています。ですが、TINAGについては「ゲームに登場するもの(登場人物、小道具など)については、全てこの現実世界に存在する理由・ロジックを考えておくべき」と言うような、ARG制作者の心構え的な側面が強いものだと僕は考えます。つまり、ゲームであるという情報を隠せば現実感が増すというのは大きな誤解で、正しくは現実にある理由付けがなされているから現実感が増すと捉えるべきです。
20.3 ARGのタイプ
この項では、様々なタイプのARGが紹介されていますが、現在、日本で実施されているARGはプロモーションタイプのみと言っても良いでしょう。
20.4 ARGの構造
同書ARGの章で特に誤解されているのが、この項の「パズルはARGを構成する最も重要な要素の1つ」という文章です。本来は「推理などプレイヤーがARG中に思考する要素全てを指す言葉」のはずですが、いわゆるクイズ型のパズル(例:論理パズル、クロスワード、漢字クイズ)だけが該当するかのように読み替えている事例を多く見かけます。
また4段階に分けられているプレイヤーレベルですが、日本のARGでここまでの広がりを見せたものは少ないと考えます。その理由として「仲間とのみ情報を共有する傾向が強いこと」や「動的なコミュニケーションツール上でゲームの流れについていけなくなったプレイヤーは、ゲームから離れる傾向が高いこと」が挙げられます。
このため、日本のARGにおいては、制作者が期待するようなバイラル(口コミ)の発生をプレイヤーに任せるのは得策ではありません。この項を読んで、ARGを実施するだけで多くのプレイヤーを巻き込めるであろうと判断することは非常に危険です。
次にプレイヤーロールについて、日本の長期型ARGでは(絶対的なプレイヤー数が少ないこともあり)1人の中心プレイヤーに様々なことを任せる傾向が強いと感じています。このことは同時に「ARG中における重要な意志決定を忌避する」という、ある意味、日本人らしい傾向にもつながります。
また日本では、体感型謎解きゲームの普及により、パズルソルバーと呼ばれるパズルを解くことに価値を見出すプレイヤー(特に前述したクイズ型のパズルを解くことに価値を見出すプレイヤー)が増えたため、プレイヤーロールが偏る傾向が出始めています。
20.5 ARGの歴史と現状
紹介されている国内のARG事例について「制作者がARGと自覚したものをARGと認定した」ことは本書の欠点です。なぜなら、この段階でARGを定義しておけば「制作者が名乗ったからARGです」という悪い意味での曖昧さは排斥できたと考えるからです。
20.6 ARGのビジネス展開
この項で説明されている展開方法について、既知の版権などがなければ、少数の積極的なプレイヤーを得ることも難しいのが日本のARGの現状です。また、プレイヤーの多くが20代前半から30代の社会人であるため、長い時間を要するARGは躊躇される傾向にあります。同時に2011年以降は、非常に多くの謎解きゲームが実施されているため、ARGへの関心を持つ限られたプレイヤーの可処分時間を失っているという環境もあります。
最後に
本書末には「ARG制作スキルの育成」という項がありますが、ARG制作者の育成については、近年、さらに厳しい状況にあると考えています。特に個人制作者の視点から見た場合、制作したARGを遊んでくれるプレイヤーが少なく手応えを得ることが難しいこと、体感型謎解きゲームの方が投資に対する収益が見込まれることという問題を抱える一方で、制作者にはゲームデザイナー兼、シナリオライター兼、パズル制作者兼、コミュニティデザイナー兼、ITエンジニア兼、グラフィックデザイナーの素養が望まれると書けば、その困難さをご理解いただけるのではないでしょうか。
ここまで色々と指摘をしてきましたが、本書『デジタルゲームの教科書 第20章 Alternate Reality Games(2010)』が、日本におけるARGの優れた解説書であることは間違いありません。一方で、ARGを制作するということは、本書に書かれているような明るい未来だけではなく、ある程度の覚悟が必要だということを改めて提示しておきます。
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