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[DT] ARG(代替現実ゲーム)関連書籍 | This Is Not A Game

ARG(代替現実ゲーム)関連書籍 | This Is Not A Game -第2回-

ARG(代替現実ゲーム)関連書籍 | This Is Not A Game -第2回-

注)この記事はARGの研究書籍『This Is Not A Game(2005)』をご紹介する第2回目の記事です。未読の方は第1回目の記事からお読みになることをお薦めします。


パート1:理論としてのARG(代替現実ゲーム)

第1章 これはゲームか? それともゲームではないのか?

 著者のDave Szulborskiは第1章の目的を「没入型ゲーム、バイラルマーケティング、インタラクティブ・フィクションなどとも呼ばれるARG(代替現実ゲーム)を定義して、誰にでも説明できる状態にすること」としています。
 その上で著者は、ARGがインターネットを介して行われるエンタテインメントのひとつであり、新しいゲームジャンルであるとしつつも、次のように記しています。

実際のところ、ARGでは代替世界がゲームの世界であるという事実を否定し、その事実を覆い隠すことを大きな目的のひとつとしています

 つまり、ゲームでありながら、ゲームであることを否定するのがARGの基本姿勢であり、その基本姿勢を端的に表した言葉が「TINAG(This Is Not A Game)」と呼ばれるARGの哲学だというわけです。このことから著者は

  • ARGは多くの人が知っているゲーム(ビデオゲーム)の構造を無視することで成立した
  • ARGはゲームの構造を無視していることを示すために様々なメディアを利用する

 という仮説を立てました。ようするに、既存のゲームの定義や構造とARGで行われていることを比較すれば、その差異からARGの定義が浮かび上がるであろうというわけです。


ゲームの定義と3つの共通項目

 では、そもそもゲームとはなんでしょうか。実はこの問いだけで、ひとつの記事が書けるぐらいに様々な見解があります。
 そこで著者は、古典とも言えるヨハン・ホイジンガやロジェ・カイヨワ、1980年代以降に出版されたクリス・クロフォード、イェスパー・ユール、ケイティ・サレンらの著作から、それぞれの定義を挙げた上で以下の3つをゲーム定義の共通項目としました。

  • ルールと、ルールに基づいた勝利条件(敗北条件)がある
  • ゲームの進行を支えるコンポーネントがある
  • ゲームを行う空間(場所、マップなど)が定められている

 では、これらの共通項目に対してARGはどのようにアプローチしているのでしょうか。著者の見解は次のとおりです。


ルールと、ルールに基づいた勝利条件(敗北条件)について

 ARGには明確なルールが存在しません。
 なぜならプレイヤーは、ARGが始まった瞬間からARGの舞台となる現実世界に存在しており、重力の法則のような常識(慣習)的なルールはそれに従うからです。
 もちろん、それらの常識的なルールが代替世界では異なることもありますが、それも常識的なルールの延長上にあり、プレイヤーはルールをすぐに理解することができます。
 なによりも、ルールを定めることで「これはゲームだからいつか終わるもの」と思われてしまうのは、代替世界への入口を破壊することに繋がるからです。

 また、ほとんどのARG(少なくとも成功したARG)では、代替世界のキャラクター同士や、代替世界のキャラクターとARG中に登場するもの、そして代替世界のキャラクターとプレイヤーの結びつきがカギとなっています。
 そこには、世界のすべてを知ることはできないという人間の本質と、欠落した情報を補完するために代替世界とのやり取りが必要になるというARGの本質が反映されているのです。

 これらのことからおわかりになるようにARGプレイヤーが事前にゲームの目的や勝利条件を知ることは不可能です。それにゲームのゴールを探す過程は、ARGのもっとも楽しい部分です(だからARG制作者はARGのゴールを隠そうと努力するわけです)。

 なお、このような形でARGは始められるため、ゲームの最初期には「誰がそのARGの背後にいるのか(制作者なのか)」を推測することも行われます。

 もっとも、この推測に対する答は、実施されたARGが会社や製品のプロモーションARGである場合、かなり早い段階で明らかにされます。そのためマーケティングを目的としたプロモーションARGは、グラス(草の根・同人・個人)で行われるARGよりも代替現実感が低くなる傾向にあります。
 だからと言って、プロモーションARGが楽しくないと言っているわけではありません。プロモーションARGは、現実の製品やビデオゲームの世界が代替世界に没入する起点となっているだけで、TINAGの姿勢を失っているわけではないからです。


ゲームの進行を支えるコンポーネントについて

 一般的なゲームの多くは、トランプのようなカードや、ダイス(サイコロ)、ゲームボード(盤面)、モニター上のゲームグラフィックスなどのコンポーネント(部品や機能)を利用してゲームを進めます。ですが、これらのゲーム的なコンポーネントを使うたびにプレイヤーは意識せずとも、自分が遊んでいるものがゲームであることを思い知らされています。

 このためARGでは、すでにプレイヤーの日常生活に深く結びついたものをコンポーネントとすることで、その問題を解決しています。具体的には、Webサイト、メール、YouTubeなどのビデオ映像、ブログ、電話といった現実との相互作用があるものがARGを代表するコンポーネントです。同時にこれらのコンポーネントを使っているおかげで、プレイヤーはARGの遊び方を簡単に理解することもできます。

 ARG制作者のJane Mcgonigalは、 2003年にまとめた自身の学術調査の中で次のように記しています。

ARGにおいて、なにが代替世界のものでなかったかを示すことは良いことです。インターネットを中心に行われたARG『The Beast(2001)』は、プレイヤーに代替世界を信じさせる、いわゆる”ごっこ遊び”でしたが、プレイヤーが体験したあらゆるできごとは現実に存在していたのです

 その上で著者は、メディア評論家のFriedrich Littlerの言葉を借りて以下のようにまとめています。

ARGが(TINAGの原則に従って)正しく行われているならば『そこにソフトウェアは必要ない』のです


ゲームを行う空間(場所、マップなど)について

 他の様々なゲームとは異なり、ARGにはゲームを遊ぶ空間(範囲)や競技場が定められていません。ARGは主にインターネットを介して行われますが、電話やSNS、リアルミーティング(現実にプレイヤー同士が会う機会)などを使うことで、そのゲーム空間はプレイヤーの日常生活にまで達します。

 このことについてARG制作者のJane Mcgonigalは

代替世界に侵食されてプレイヤーのオンラインとオフラインの生活はひとつになった

 と表現しました。そして、この「代替世界と日常生活が分離されていないというARGの特徴」は、多くのゲームで暗黙のルールとなっている「ゲームを遊ぶ場所と時間は、外の普通の生活から意識的に分離されている」という考えに矛盾しています。

 ですが、ほとんどのARGでは、ゲームのために設けられたWebサイトを中心に、様々な方法でプレイヤーに情報を投げかけ、両者でやり取りをして、代替世界を日常生活に侵食させていきます。つまり、代替世界と日常生活が分離されていないという点が、ARGの持つ没入感の源なのです。


最後に

 書籍『This Is Not A Game』の第1章はいかがでしたでしょうか。著者のDave Szulborskiは「ゲームでありながら、ゲームであることを否定する」ことがARGの特徴であり、そうすることで「ゲームのようでゲームでない」代替世界が日常生活を侵食し始めるとしました。

 これらのことからも、やはり「TINAG(This Is Not A Game)」の原則は、まずARG制作者に向けて発せられた言葉だと考えます。また僕の感覚では、TINAGの原則を突き詰めることは、作家が物語の中で世界を作り上げる行為にも似ています。あなたは自分が作った世界を「本物にする企て」をしていますか?


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